あらすじ
「婚約破棄だ。すまない、君とはもう結婚できない」
そう言われた日の夜、私は黙って包丁を研ぎ続けていた。
恋に恋した乙女心は、あっけなく砕け散った。
涙の代わりに、包丁をギリギリと磨き上げながら――
私は、あの男との思い出をひとつひとつ、削り落としていく。
「あんなの、よくよく考えたらロクな男じゃなかったわ」
浮気? 自己中? 母親の言いなり? ……論外だわね。
思い出すたびに、包丁をまな板にドンッと叩きつける。
鋼の音が心の迷いを打ち消していく。
この気持ちは、料理に込めて昇華させてやる。
未練も、後悔も、あの男の顔も、ぜんぶ切り刻んでやる。
そうして私は今日も、静かに包丁を研ぐのだった――
これは、包丁と私と、ちょっぴり不器用な再出発の物語。