あらすじ
主人公の松岡裕二は1948年(昭和23年)生まれの、人口最多の「団塊世代」のど真ん中。
居室で妻に離婚を強制的に迫る父は、それを頑として拒む妻をその大きな素手で殴りかかっていた。妻は崩れて畳に倒れこむ。大男の父が再び襲いかかろうとしたとき、幼稚園児であった息子の裕二は、室内用の箒(ほうき)の長い柄を振りかざして、懸命に父を背後から叩いた。この幼子の意外な挙動に驚いたのか、男は妻への暴力を止めて部屋から出て行った。
まもなく裕二の両親は別居した。祐二は父親に強引に連れられて、台東区根岸に住んでいた愛人宅の小さな借家に移り住んだ。
父の庄作はそこで愛人と同棲し、息子の祐二は、実質的に継母となった若い女性に育てられる。その時には、すでに愛人の腹には父の子が宿していた。
但し、父と愛人との「婚約」や「結婚」は法的に正式のものではなく、実態として夫婦生活を送っていたものの、裕二の実母とは離婚が成立していなかった。そのため法律的かつ戸籍法上では、正式の夫婦にはなっていなかった。裕二の実母に対する父の一方的な行為は、明らかな正妻への裏切り行為だった。その犠牲になったのは、正妻だけではなく子の裕二もその裏切りの被害者といえた。
さらに入籍できない恨みから、継母は父を裏切り、裕二に対して継子苛めを繰り返した。家事を強いられた挙句の果てに、継母に侵されて小6で童貞を失う。だがその戯れに、油断した継母は妊娠して翌年に男子を産んだ。
裕二がこの事実を知るのは、交通事故で瀕死の重傷を負った後の20歳の頃。
祐二は小学校を6度も転校する。
その度に引っ越しをしていたから、松岡一家は、まさに絵に描いたような「引っ越し貧乏」を地で行く、流転の窮乏生活を繰り返す。
小6で性の手ほどきを受けた裕二は、その後、小学校、中学校、高校、社会人の中で多くの女性と遍歴を重ねる。
しかし、中学校の同級生の亮子に巡り合って、その素朴さと清純さに魅入られる。母性愛溢れる亮子のふくよかで白く輝く肉体美に溺れる。
二人は激しく愛し合う。
だが二人の赤い糸は、様様な裏切りの中で契れ解れる。
その中で二人の相思相愛を固く結んだのは、亮子が編んで裕二にプレゼントしてくれた手製の「手編みのネクタイ」。
交通事故、記憶喪失、肺結核で遠く離れてしまった二人の愛を繋ぎとめたのは、亮子が編んでくれたレースの黒いネクタイだった。