あらすじ
塚元(つかもと)卓(たく)は二十八歳。会社員で、今は亡き観世流シテ方(かた)能楽師・塚元寛二の息子。もと能楽師志望で、その将来も有望だった彼は、十八歳のときのある事故がきっかけで扇を捨て舞台を去ってしまう。稽古場仲間で子供の頃からの幼馴染、野守(のもり)菜摘(なつみ)を事故で亡くしてしまうのだ。
以来生まれ育った故郷にも戻れず、彼女の墓前にも参ることが出来ない卓。厳しすぎた稽古と、風当たりのきつい叔父、半ば見え透いていた将来から逃げ出しかけていた自分。何よりも、彼女の本気の夢に全力で向き合っていれば…と、悔やみきれない思いで自分を責め続けていたのだ。やり直したい、そんな思いで故郷に足を向けた卓だったが…
高校時代、よく訪れていた寂れた神社。社で手を合わせた卓は、帰りの参道で信じられない人物を目にする。昔あれほど見慣れていた服装、背格好。なんと卓は十年前に死んだはずの菜摘本人と再会したのだ!
十年前と同じ町並み、顔ぶれ、そしてカレンダー。見知った能楽堂に厳しい叔父。懐かしい仲間たち。卓は高校時代のあの時に戻ったことを知る。再び扇を手に、戸惑い苦悩し始める卓。過去を思い出しながらも、生き直そうと奔走する。やり直せ――かけがえのない人の未来を見据えながら。きみの居る世界を、取り戻す!
能世界不屈の名曲『道成寺』。上演中舞台に吊り上げていた鐘が落下し、菜摘は命を落としたのだった。全てを見ていた卓は、今度は自分がシテ(主役)を演じることを引き受ける。鐘が落ちるタイミングは知っている、何が原因かも――かくして卓は再び危険な舞台に挑もうとするのだが……
舞台の結末は? 卓と菜摘の運命は? 卓は彼女を取り戻すことが出来るのか。
能の世界を舞台に繰り広げるファンタジー。