あらすじ
十字路の真ん中に変な人がいた。
ひとりの女性が四方に伸びる道路のどれにも進まず、ただ同じ場所でぐるぐると回っている。
「実はコンタクト落としちゃいまして」
彼女の顔が私のほうを向く。
しかし目が合っているわけではない。どこが私の目なのか、はっきり見えていないのだろう。
「あー……家まで送りましょうか?」
「え、いいんですか」
家の場所を尋ねると、彼女は言葉を詰まらせた。
なにか言いよどんでいる態度を不思議に思っていると、おずおずと彼女は口を開く。
「あの、行きたい場所があるんです」
焦点の合わない目にゆるぎない光が宿る。
「わたし、約束を破らなきゃいけないんです」