あらすじ
扉を開くと、からん、と鈴が鳴った。
「いらっしゃいませ」
カウンターの向こう側でマスターが声をかけてきた。
何名様ですか、とは聞かれない。
「こちらの席へどうぞ」
カウンターの上にはメニューもない。話に聞いた通りだった。
「……プロポーズを、断られてしまって」
僕は何もないカウンターの天板を見つめながらそう言った。
「かしこまりました」
少しの間があってから、マスターはそれだけ告げた。
この店には看板もない。
けれどどこからか噂を聞きつけた人が定期的にやって来るという。僕もその一人だ。
訪れた客の失恋に合わせた珈琲を淹れてくれる店がある、と。