あらすじ
遠野澪(とおの・みお)、29歳。
彼女は、自分の「顔」を知らない。
子どもの頃のある出来事をきっかけに鏡を見ることを避け、笑うこともやめていた。世界を斜めに見て、雨の中だけが素顔を隠してくれる――そんな生き方が、当たり前になっていた。
ある雨の日。駅の軒下で佇む見知らぬ女性に、思わず傘を差し出す。
それは、滝川薫(たきがわ・かおる)との出会いだった。
数日後、再会した薫から礼を告げられた澪は、不思議とその言葉が頭から離れず、次第に薫に惹かれていく。
恋など、無縁だったはずの心が揺れる。
「この人なら、わたしの“顔”を見られてもいいかもしれない」
そう思えたとき、澪は薫に打ち明け、ふたりの関係が始まる。
しかし薫は、モデル事務所のスカウトマンだった。
「あなたは、美しい」
その言葉に戸惑い、揺れる澪。
拒絶したくなる過去と、それでも誰かに見つめてほしいという願い。
やがて澪は、自分と向き合う決意をし、モデルとしての人生を歩み始める。
鏡のなかにいる“わたし”を、初めて見つめて、笑えた日。
それは、愛されていると知った日だった――