あらすじ
『歩む、その足で ~その一足が、未来を変える、ささやかな正義の話~』
物語の概要
これは、ヒーローになることなど望んでいない、一人の不器用な男の物語。
舞台は、都心から少し離れたベッドタウン「彩川市」。
駅前の靴量販店「ステップワン」で契約社員として働く木村歩(きむら あゆむ)は、物静かで、一見するとどこにでもいる普通の青年だ。
しかし、彼には一つの特異な才能と、心の奥にしまい込んだ消えない後悔があった。
学生時代、本気で打ち込んだスポーツで、足に合わない靴を選んだ「無知」が原因で選手生命を絶たれた過去。
その取り返しのつかない後悔は、彼の行動原理そのものとなっていた。
彼は、お客様の足元をただ観察する。歩き方の癖、体重のかかり方、靴の歪み──。
そこに潜む未来のリスクを見抜いた時、彼は販売員という役割を超えてしまう。
店の利益や自分の評価を度外視し、時に煙たがられながらも、お客様が未来で後悔しないための「正しい一足」を提案せずにはいられないのだ。
これは、彼の行動を「非効率」と断じる店長や、考え方の違う同僚との静かな対立を描く、職場の物語。
様々な悩みを抱えたお客様と出会い、その一歩を支えることで、彼自身の心の傷も少しずつ癒されていく、一話完結のヒューマンドラマ。
派手な事件も、世界を救う力もない。
ただ、目の前の誰かの「未来の歩み」を守ろうとする、ささやかで、誠実な正義の物語。
登場人物紹介
木村 歩(きむら あゆむ)
本作の主人公。26歳。靴量販店「ステップワン」の契約社員。
物静かで不器用だが、靴のことになると驚くほどの知識と情熱を見せる。
人の足や歩き方を観察し、その人が抱える潜在的な問題を見抜く特技を持つ。
学生時代の怪我による挫折経験が、「無知が招いた後悔を誰にもさせたくない」という強い信念の源泉となっている。
将来、一人ひとりの足に合わせたオーダーメイドの靴職人になることを夢見ている。
吉田 健司(よしだ けんじ)
「ステップワン」彩川駅前店の店長。42歳。
本社からの売上目標と現場の板挟みに悩む、典型的な中間管理職。
木村の知識や真面目さは認めつつも、その非効率なやり方に頭を痛めている。
「組織の論理」や「社会の常識」を象徴する、現実主義者。
鈴木 恵美(すずき えみ)
木村の先輩同僚。28歳。
明るくコミュニケーション能力に長けた、店の若きエース販売員。
巧みなセールストークで高い売上成績を誇る。
木村とは仕事への哲学が正反対で、意見がぶつかることも多いが、根はさっぱりしている。
伊藤 優太(いとう ゆうた)
木村の後輩同僚。21歳。
今どきの大学生アルバイト。
仕事は時給分と割り切っており、当初は靴に異常な情熱を燃やす木村を「変わった人」としか見ていない。
田中 海斗(たなか かいと)
木村の学生時代の親友。26歳。
中学・高校で同じスポーツ部に所属していた、最高の相棒。
木村が挫折した後も競技を続け、現在はスポーツに関わる仕事をしている。
木村の才能と挫折を誰よりも知っており、今でも彼の最大の理解者の一人。
歩にとっては、自分が失った「もう一つの未来」を象徴する、まぶしくも複雑な存在。