あらすじ
野村隆介、六十七歳。妻と死別して十年、孤独を仕事で紛らわせてきた彼の心が動き出したのは、ボランティア活動で出会った渚菜緒子という女性がきっかけだった。彼女の柔らかな笑顔や憂いを帯びた瞳に惹かれ、いつしかその存在が彼の胸に深く刻まれていった。しかし、菜緒子の左手薬指の指輪は、彼女が既婚者である現実を突きつけ、隆介の想いが叶わないものであることを示していた。
それでも、菜緒子と出会えたことは隆介にとって大きな幸せだった。彼女の些細な仕草や言葉が日々の活力となり、夕陽を見ながら彼女を想うことで心の温かさを感じていた。彼女の幸せを願う一方で、自分の心が揺れ動くたびに切なさを覚えた。
ある日、彼女との何気ない会話が心に残る。その後、図書館で出会ったカフカの詩が、彼の心を解き放った。「大好きと思える人がいることは幸せ」という言葉が彼の心を温かく包み込み、彼はその想いを受け入れることを学ぶ。
「出会えたことに感謝する」。隆介はこの恋を人生最大の宝物として胸に抱き、穏やかで清らかな喜びと共に、茜色の空を見上げる日々を大切にしていく。