あらすじ
働かない夫に代わり、仕事に家事に育児と五人家族を一人で支えてきた亜希は、身体的にも精神的にも疲れ果てていた。三十六歳にして肌のハリもツヤも失われ、頭にも白髪が交じっている。母としても「女」としても、亜希の人生には喜びを感じる余裕がなかった。
そんな亜希の前に、一人の若者が現れる。街中に放っておかれるように倒れていた彼に、亜希は声をかける。彼に同情し、たまたま持ち合わせていた家の全財産に近い大金を渡して、彼の前を去る。人助けをしたという事実と、若い男に心を揺さぶられたという思いは、亜希を一時の間豊かにさせた。
しかしその若者は、指名手配書に載っている詐欺師だった。全財産を騙し取られたことを悟った亜希は、遂に限界を迎える。駅のホームに立ち尽くし、特急電車が通り過ぎようとする最中、家族への最後の想いを心で告げて、決心を固める。
ブルルルルル。ブルルルルル。
そのとき、亜希のポケットの中の、携帯電話が振動した。相手はあの若者だった。いくつか言葉を交わし、最後に彼はこう言った。
「また、会ってくれますね?」
そうして亜希の人生は、この若者と共に新たなページが刻まれていく。