あらすじ
惑星セリネアの小さな村。
少年ユンは、毎朝まだ誰も起きぬうちに、古い石の塔に向かい、一枚の紙を朗読する。それは「継の紙」と呼ばれ、意味もわからぬまま何世代にもわたり伝えられてきた不思議な詩文「エル・ナフ」が書き写されたもの。声に出して語り継ぐこと──それがユンに課せられた大切な務めだった。
だが、ある朝。
空を裂くように走る白い光が、ユンの静かな日常に入り込む。友人のサエル、ミノリとともに、小山のふもとで見つけた石とも金属とも知れぬ破片。それは、この世界には存在しないはずの何かの欠片だった。そこに刻まれた言葉とも呪文ともとれる記号から、少年たちは知ることになる。「語ること」の背後に広がる、もっと大きな何かの気配を。
一方、軌道上ではセリネア文明の監視ステーションが、ユンの朗唱を捉えていた。音声を分析し、記録し、遠く離れた地点へ送信する──それは、誰にも知られぬまま行われる、もう一つの観察の物語。
祭礼の日。
ユンは祖父の手を借りず、初めて「エル・ナフ」の全文を一人で読むことになる。不安と誇りと、ほんの少しの憧れを胸に抱えて。見守るのは、家族と村の人々、そして──ひとりの少女。
少年の声は塔に響き、空へと抜け、誰かの耳へ届く。
それが何を意味するのかも知らずに。
語ることは、ただの儀式か。
それとも、遠い誰かへの呼びかけなのか──
静かに始まり、やがて宇宙をも巻き込む、継承と記憶の物語。