あらすじ
「しつちょー! ちわーっす!」
私の城である『感染対策室』の静寂を、週に一度、太陽みたいな声でぶち壊しにくるのは、医療材料メーカーのギャル営業・小日向ひまり(20)。
アポなし、売る気なし、手にするのは営業資料ではなくタピオカドリンク。
キラキラのネイルは推し活のための『武装』だと言い張り、難しい話は秒で眠くなる、まさにイマドキの若者だ。
そして、そんな彼女を迎え撃つのが、私、三上真澄(40)。
バツイチ、子なし。手術室勤務を経て、感染管理認定看護師の資格を取った、この城の唯一の主(あるじ)。
肩書は室長でも部下はゼロ。日々の業務は、目に見えないウイルスや細菌との終わりなき戦い。私の武装は、短く切りそろえた爪と、膨大な知識だけ。
来訪の目的は営業のはずなのに、彼女が持ち込むのはゴシップ週刊誌みたいな他愛もない世間話ばかり。
「このネイル、銀河の果ての守護神なんすよ!」
「室長の元旦那ってどんな人だったんすか?」
「今度のダチの結婚式、どっちのドレスがモテますかね!?」
水と油。正論と感覚。大人とギャル。
交わるはずのなかった二人の世界が、殺風景な感染対策室で、ほんの少しだけ交差する。彼女の言葉が、私の凝り固まった心を少しずつ溶かし、私がこぼした過去の痛みが、彼女の明日をほんのり照らす。
クスッと笑えて、心がちょっとだけ軽くなる、週一回のミーティングを覗いてみませんか? 一話完結の掌編なので、スキマ時間にサクッとどうぞ。
※この物語には、天才外科医による神がかりな手術も、緊迫した救命シーンも、院内の権力闘争も一切ありません。ほぼ9割が、どうでもいい雑談で構成されております。