あらすじ
昭和十年代、東京市牛込区――、花街のほとり。
玉乃井 櫂(たまのい・かい/24歳)は迷路のように入りくんだ花街の路地で迷子になっていた。
櫂は焦っていた。まもなく通り雨がくる。変化朝顔の育種家であり、園芸家でもある彼は、庭に出しっぱなしにしてきた朝顔の苗を心配していた。雨にあたると、丹精込めて世話している変化朝顔の苗が台無しになってしまうからだ。
困っている櫂を助けてくれたのは、近くの大学に通う学生、真木 哉(まき・はじめ/20歳)だった。櫂は見ず知らずの自分に親切にしてくれた哉のことが忘れられない。花街の煮豆屋「香つき」の前で、哉とまた会いたくて待ち伏せをする。幸運にも再会できた哉は、やはり優しくて魅力的だった。
櫂は哉に助けてもらった礼に、変化朝顔の鉢植えを差し出す。
「私が差し上げられるものといったらこのくらいしかなくて。夏の終わりに、面白い花がつくと思いますよ」
「じゃあ、この花の生育についてあなたに知らせるために、ときどき遊びに行ってもいいですか」
それが櫂と哉の出会いだった。戸惑いながらも哉のまっすぐな行動に惹かれていく櫂。しかし櫂には、哉に告げていない秘密があった。
花街に鬼灯市が立った夜、哉は櫂の秘密を知ってしまう。櫂の自宅まで押しかけた哉を、強ばった声で追い返す櫂。
玄関の引戸が締まる刹那、目が合った。
諦め、悲しみ、未練、――恋情。
櫂のうるんだ目に、哉は言葉をなくす。
会えない時間、深まる葛藤、募る思い。
――世間体も行く末も、あの人の気持ちも都合も、全部どうでもいい。
「哉さん、私は何の得にもならない男だよ。むしろ哉さんの枷になる」
「枷でもいい。損得なんて考えてない。正直なところ、あなたの気持ちだってどうでもいいんだ。あなたが好きで、好きで、ほしくてたまらない」
「哉さんには、将来があるでしょう」
「それなら櫂さんにも同じように将来があるはずだ。一緒にいてほしい。すぐにとは言わない。だから――、俺だけの人になってもらえませんか」
過ぎ行く夏、朝顔の花の終わり。櫂は心を決める。
はたして櫂が選んだ将来とは?
昭和のはじめ、舞台は東京・神楽坂。ほんのりえっちなボーイズラブです。よろしくお願いします♡