あらすじ
「灰色だけの世界に、きみは“色”を連れてきた。 それは、私の心が見つける、真実の色彩だった。」
五年前の火災によって視覚に異常をきたした高校生・白川詩乃は、色を喪い、灰色だけの世界で生きている。感情を殺し、「何も感じないふり」で過ごす彼女の唯一の記憶は、あの日の炎の赤、そして亡き姉・彩花のカーディガンのざらついた感触だけだった。
そんな詩乃の前に現れたのは、他人の感情を「色」として視覚化できる不思議な少年・ハル。彼が見ている色の世界に、詩乃は次第に惹かれていく。
だが、ハルには“火事の加害者”である可能性があり、詩乃の親友・結衣は彼を強く警戒する。 詩乃を想うがゆえに、独自の「正義」で守ろうとする結衣の行動は、やがて三人の関係を軋ませていく。
それぞれの抱える感情が、やがて色となって交錯する。 過去を赦せないハルの「青」、揺らぐ信念の中にある結衣の「緑」、凍りついた詩乃の「赤」。 そして、火事の夜に隠された真実、姉と友人が託したスケッチブック、裏表紙に残された「ふたりは、まだ見えていないだけ」という謎の言葉――。それらすべてが、失われた色彩の記憶をつなぎ直していく。
これは、喪失と誤解の中で、「見えない色」を心で感じ取っていく物語。 そして、すれ違いながらも互いを理解し、過去と未来を繋ぎ直すための、再生の旅路である。
それは、視覚ではなく、心で見る“新しい色”。 誰にも名前を与えられていなかったけれど、三人だけが確かに知っている―― 再生の「紫」だった。