あらすじ
松山と小倉を結ぶ夜行フェリー。進学を夢見る十八の景司は、はじめての旅に不安と希望を抱き、その船に乗る。潮の匂いと機械の響き、静かな夜の海の記憶は、やがて彼の人生の芯となった。
四十年後、老境に差しかかった景司は、新聞でフェリー廃止の報せに触れる。思い出を確かめるように、最後の便に乗船する彼は、船内でかつてと似た境遇の男と語り合い、時の流れと記憶の重なりを静かに受け止めていく。
帰郷後、景司は自らの記憶をスケッチと文に綴り、船と人のつながりを子どもたちに手渡す。冊子は港町の心を呼び起こし、やがて世代を越えて共有される物語となる。景司は「夜の海でも、まだ行ける」と描き残す。消えゆく航路と、消えない記憶の物語。