あらすじ
考古学者・景司は、古陶磁の贋作騒動に巻き込まれながらも、真贋とは何かを問い続ける一人の研究者である。ある日、彼は「無名のすり鉢」に魅了され、贋作として見捨てられた一群の陶器にかつての生活の息吹を感じ取る。学界では高名な陶工・松田崇作とされる器だけが「本物」とされ、似た器を作っていた他の職人たちは歴史から抹消されていた。
景司は調査の末、松田崇はあくまで代表者にすぎず、同時代に似た技法を持つ多くの職人がいたことを突き止める。だが、学界はその発見を「余計な混乱」として拒み、景司は孤立。最終的に学界を去るも、贋作の中にこそ真実があるという信念を捨てなかった。
年月が流れ、景司は地方の小さな窯元で若い女陶工と出会う。彼女の無名のすり鉢に、かつての無数の職人たちの記憶を重ねた景司は、その器に“無銘”という名を贈る。
偽物と本物を隔てるのは名声ではなく、そこに込められた手のぬくもり、そう確信しながら、景司は今も静かに「ほんとう」を探している。