あらすじ

定年を迎えた六十五歳の景司は、長年の勤めを終え、自らへの小さな褒美として四国一人旅に出る。目的は、若き西行が命の機微を抱えて船で渡ったという四国の地を、自らの足で辿ること。今や鉄の橋で結ばれた四国へ、景司はあえて船で渡り、「橋の未来を夢にも知らず」と詠まれた一首の短歌を胸に、静かなる巡礼を始める。 讃岐・善通寺では弘法大師に、松山では道後の湯と漱石に、土佐では坂本龍馬の志に触れ、そして阿波・徳島では無名の踊り手たちの写真展に心を打たれる。どこでも景司は、派手な観光ではなく、歴史と庶民の息遣いに耳を澄ませ、かつての“日本の芯”に触れようとする。 旅の終盤、瀬戸内の高台から瀬戸大橋を望んだ景司は、橋の便利さの裏に隠れた“渡る意志”の意味を深く思う。帰路の船上、彼はこう記す。「橋があっても渡る心がなければ人は遠い。渡る心があれば、たとえ船でも、人は近くなる」と。 この旅は、景司にとって老いをただ受け入れるのでなく、生き直し、学び直すための“心の橋渡し”の旅だった。

連載情報

ウェブ小説

配信言語
エブリスタ
エブリスタ2025/06/05
  • 現在の作品西行も知らぬ橋を越えて