あらすじ
景司は、傀儡(くぐつ)芝居に心を打たれ、己の人生を木偶(でく)とともに歩むことを決意する。彼が選んだのは恵比寿の面を被った夷舁(えびすかき)という芸、片手に木偶、片手に糸を操り、笑いの面に人の喜怒哀楽を映す、孤独な旅芸であった。
若き日は恵比寿の顔に笑いを求められ、景司はその期待に応え続けた。しかし歳月とともに、自身の心にも変化が訪れる。芸に対する情熱と、世の冷たさとのはざまで、彼は「舁く」ことの意味を問うようになる。
そんな折、若者・宗太との出会いが景司に新たな光をもたらす。宗太は木偶の奥に「泣いている顔」を見抜き、景司は彼に芸の本質を伝え始める。芸は技ではなく、思いを届けること、それが景司の答えだった。
やがて景司は傀儡箱を宗太に託し、自らは舞台を降りる。舁く者から託す者へと変わり、芸は次の世代へと受け継がれていく。恵比寿の顔は今も笑う。その背にある者たちの、黙して語らぬ人生の重さとともに。