あらすじ
母の介護と孤独な生活に疲れた中年男・景司は、人生の歯車がすべて外れたある春の日、軽四に乗ってあてのない旅へ出る。宿はネットカフェ、食事は缶コーヒーとコンビニ惣菜——そんな“貧乏旅行”のなかで、彼は各地で出会う名もなき人々、風景、そして風のように心を揺らす言葉に触れていく。無人駅の青年、麦畑で木を削る娘、月灯りの劇場、雪の町の老画家、過疎地の若者たち。それぞれが抱える痛みと願いに触れながら、景司はただ“生き延びるだけ”だった自分を赦し、忘れていた夢と声を取り戻していく。そして最後に彼は「地図のない場所へ」向かって走り出す。これは、ひとりの男が風に導かれながら灯を受け取り、やがてその灯を誰かに渡していく、再生と継承の記録である。