あらすじ
十八歳で町工場に就職した景司は、貧しいながらも愚直に働き続けてきた。油と鉄粉の匂いに満ちた職場で、誰に注目されることもなく、ただ「居ること」を選び続けた景司。出世も栄誉も望まず、ただ一歩を動かし続けるように、傾いた泥舟の上を踏みしめるように生きてきた。
時代は変わり、会社は合理化と縮小に向かい、若者たちは辞めていった。取り残されたような景司は、静かに耐え、静かに働き続ける。そんなある日、町の図書館で出会った子どもたちとの交流をきっかけに、景司の人生にかすかな風が吹き始める。誰にも知られず、評価もされない日々の中に、じつは確かな「生きる意味」が宿っていたことに、景司はようやく気づく。
我慢とは、仕方なく耐えることではない。誰かのために、そして自分の誇りのために、今日も働き、明日も生きることだった。小さな声に耳を傾け、静かに立ち続けた男の一代記。