あらすじ
景司、六十過ぎの独り身。
倉庫勤務の地味で堅実な日々を送る中、彼のささやかな習慣は“誰にも気づかれない善意”を積み重ねていくことだった。ゴミを拾い、老女を助け、子どもに絵本を読み、困っている人に声をかける。そうしているうちに、「良いことをしていたら、きっと良いことが起きる」と信じ始めるようになるが、その考えはやがて彼の心に揺らぎを生む。
——それは見返りを求める“さもしい”動機ではないのか?
評価されたい、誰かに喜ばれたいという“欲”ではないのか?
そんな悩みに胸を曇らせながらも、彼は静かに行いを続ける。
やがて地域の図書館で読み聞かせを始め、子どもたちの笑顔に触れながら、自分が「何のためにそれをするのか」という問いと正面から向き合っていく。
見返りのない善意に、意味はあるのか?
善意とは“まこと”なのか、それとも“取引”なのか?
人生の後半に差しかかりながら、景司が見出す「静かな誇り」とは――。
これは、誰にも見えなくても、人知れず正しくあろうとした男の、やさしく確かな日々の記録である。