あらすじ

市役所の環境衛生課に三十五年勤め上げた景司は、静かな定年退職の日を迎えようとしていた。しかし、その人生の始まりにはひとつの嘘があった。実は大学を卒業していたにもかかわらず、高卒枠の採用試験に応募するため、最終学歴を「高校卒」と偽っていたのだ。自分の行動が誰か一人の若者の未来を奪ったかもしれないという思い、そして大学時代の知人からの通報を疑う日々。逃げ切ったと思えば思うほど、罪の影は深まっていった。だが景司は、最終的に自らの過去を人事課に明かす道を選ぶ。それでも、その行為は赦しを得るためではなかった。三十五年間の誠実な勤務が、嘘を帳消しにすることはない。しかし、嘘とともに生きた人生を自分で否定しないために、彼は静かにその重荷を下ろす。逃げることは勝ちではなかった。ただ、生き延びるための、唯一の術だったのだ。

連載情報

ウェブ小説

配信言語
エブリスタ
エブリスタ2025/07/04
  • 現在の作品逃げるが勝ちの景司 ― 学歴詐称で逃げ切った公務員の人生