あらすじ
五十三歳、南原信一。
営業部長として働く彼には、誰にも譲れない「もう一つの顔」があった。
それは、夏の夜、櫓の上で和太鼓を叩くこと——「盆踊りの男」。
幼い頃、太鼓に出会い、胸の奥から突き上げる音に魅せられた。
以来、毎年の夏は、どんなに忙しくても、太鼓とともにあった。
けれど、世界は変わった。
音も、光も、笑顔も消えた夏。
コロナ禍で失われた盆踊り。
祭りも、仲間も、太鼓の音さえも静かに消えていった。
誰もいない部屋で、信一はひとりバチを握り続けた。
誰にも届かなくても、太鼓の音は彼の「心の鼓動」だった。
叩くことで、自分を、人生を、つなぎとめていた。
——もう一度、音を響かせたい。
——笑顔があふれる、あの夏を取り戻したい。
そんな想いから、たったひとつの動画を作り、静かにアップした。
やがてその音は、誰かの心に届き、小さな火種となって広がっていく。
盆踊りの太鼓に、ディスコのビート。
子どもも大人も、国も世代も飛び越えて、みんなが笑い合う「サマーBonダンス」が生まれる。
消えた夏の音は、確かに戻ってきた——
太鼓は、人生のリズム。
年齢を重ねても、音は終わらない。
そのバチを握る限り、人生もまた、終わらない。
響け、和太鼓。
つながれ、未来へ。
これは、もう一度「夏」を取り戻す、優しくて熱い物語。