あらすじ
定年退職した景司は、亡き妻との約束だった「日本中を旅する夢」に胸を膨らませていた。だが、母たよの介護が突然始まり、生活は一変する。認知症を抱える母と二人きりの毎日は、外の世界を閉ざし、旅の計画は手帳の片隅へと押しやられる。
旅は奪われたように見えたが、母との日々の記録やささやかな会話が、景司に“心の地図”を描かせる。介護の現場は静かな旅路となり、過去を見つめ、今を受け入れ、少しずつ人生の風景が広がっていく。
やがて母が逝き、景司は「地平ノート」と名付けた記録を手に、地域の図書館で絵本の読み聞かせを始める。人とつながり、言葉を紡ぎ直しながら、彼は自分の中に宿る旅の芽を育てていく。
それは距離を進む旅ではなく、心の奥へ歩み続ける静かな道行き。人生という名の地図を再び描きながら、灯を胸に、景司は今日も小さな旅を始める。