あらすじ
景司は中堅企業に勤める五十一歳の営業係長。常に空気を読み、多数派の側に身を置き、波風を立てずに生きるその姿から、社内では「コウモリ係長」と呼ばれている。部長と課長が対立すれば両方に微笑み、提案の席では「風向きを見てから判断します」と言って場を濁す。そんな景司の世渡り術は、器用に見えてどこか滑稽で愛おしい。
しかし人事異動、企業再編、そして不正疑惑の渦中で、景司はついに多数の背中を離れ、自らの声を選ぶ。コウモリは羽ばたく方向を迷いながらも、夜空に音を聞き、自らの場所を見つけていく。
世渡りだけでは済まされない時代のなかで、景司は「人に寄り添う勇気」を覚え、少数派に立ち、静かな風を起こしていく。信念とは強さでなく、迷いながらも帰る場所を見失わないこと。そうして景司の物語は、風まかせではなく、“心まかせ”の一歩を踏み出していく。