あらすじ
主人公の千尋(ちひろ)にとって、父のうしろ姿は「拒絶」の象徴だった。
いつも不機嫌で、リビングのソファに陣取り、家族に背を向ける父。その大きな背中を見るたび、千尋は「自分は父に愛されていない」と感じ、長年のわだかまりを抱えていた。
そんな父が、定年退職を迎えた。
母に促され、お祝いのために渋々帰省した千尋を待っていたのは、やはり重苦しい沈黙が支配する食卓だった。父との間に流れる気まずい空気に、千尋の心は固く閉ざされていく。
その夜、母から「あなたが忘れてるお父さんが、ここにいるかもしれないから」と、一冊の古いアルバムを手渡される。
ページをめくる千尋の目に映ったのは、忘れていた、よく笑う優しい父の姿だった。自分のために必死で自転車を追いかけてくれた、温かい背中。運動会で自分を誇らしげに肩車してくれた、たくましい背中。
幸せな記憶をたどるうち、写真は少しずつ笑顔のないものに変わっていく。いつから、どうして、父は変わってしまったのか。
答えを探すようにたどり着いたアルバムの最後のページ。父娘の断絶のきっかけとなった、あの入学式の写真。そこに、父の長年の「秘密」と、家族の本当の物語が隠されていることを、千尋はまだ知らない。
これは、一人の娘が、父の背中に隠された涙の真実と向き合い、失われた時間と愛情を取り戻す、感動の物語である。