あらすじ
地方の大学から都内の有名企業へ、偶然の縁によって入社した景司は、会社の名に守られた人生を静かに歩んでいた。華々しい成果はなくとも、名刺の肩書が彼を社会の輪郭に収めてくれる。そんな折、見合い話が舞い込み、奈保子という令嬢と順調に交際を重ねる。彼女は控えめで美しく、景司は祝福された男になったように錯覚する。
しかし結婚直前、奈保子の態度は一変する。微笑の奥には冷笑が混じり、婚約は「なかったことに。」と手紙一通で終わりを告げられた。景司は名刺も婚約も、社会的肩書さえも自身を保証しないことに気づく。それでも日々は続き、会社の辞令で大阪へ転勤となる。
新しい街では、名も過去も知られない場所で、肩書きの裏にある声を少しずつ発し始める景司。祝福されなかった自分を受け入れ、名刺を渡さずとも人と繋がる道を見つけていく。やがて彼は、名も制度もいらない静かな幸福の中で、沈黙の祝福を生きるようになる。