あらすじ
景司は、小さな会社に勤める一人の社員。業務の枠を越えて、誰にも頼まれず、誰にも気づかれず社内を清掃し、湯茶を整え、資料整理を手伝い、同僚の負担をそっと軽くしていた。
目立つことを避け、功績を語らず、それでも景司は、誰かの助けになっていることに誇りを感じていた。社長や同僚がその善意を他の誰かの手柄にするたび、景司は「それでええ」と笑い、むしろ喜びとした。
名前の出ないやさしさが、少しずつ社内の習慣になり、景司式の所作が若い社員や後輩の手に息づいていく。
やがて退職の日、誰もが語らずとも景司の行動を真似し、社内には名もなき誇りが根づいていた。景司の生き方は、誰かの“ふとした仕草”として静かに残っていく。
目立たず、語らず。それでも確かに届いていた灯。
それが、景司の選んだ誇りだった。