あらすじ
父の死後、遺品から数件を超える借用書を見つけた青年・景司は、白封筒の束を手に全国をめぐる旅に出る。資産家だった父がなぜ小さな金額をさまざまな人々に貸したのか、その意図を探るためだった。軽自動車に乗り、古びたノートを片手に景司が訪ねる先々には、父の名前に思いを寄せる人々がいた。喫茶店の老婆が語るコーヒー一杯の恩、漁師が語る命をつないだ網の補修、廃村で見つかった誇りの記憶、大企業社長が抱えていた七万円の約束、そして封筒にすら記されていなかった“見えない貸し”の物語。金の返済ではなく、人の記憶を集めていく景司は、やがて一通の未開封の封筒と向き合うことになる。それは父自身の悔いと愛情を綴った、借用書なき借りだった。旅の終着地で、景司は封筒に記された想いを胸に、父の墓前に立ち、静かに人生のノートを閉じる。