あらすじ
毎日同じ通勤路を歩く32歳のサラリーマン・長谷川圭。ビューポート社の品質管理部で働く彼は、業務として様々な視点体験VRサービスをテストしていた。街角の看板「他者の目で見る世界への旅」が示すサービスの品質を確認するため、猫の視点を体験することになる。
ヘッドセットを装着した瞬間、世界は一変した。四つん這いが「正しい姿勢」と感じ、人間の足音が地鳴りのように響く。しかし体験後、圭の日常に異変が起きる。二足歩行への違和感、夢の中で「ニャー」と鳴く自分。石の視点では永遠の時間感覚を、雲の視点では重力からの解放を味わうが、もはや元の人間には戻れない。
同僚の異常な離職率。調査を進める圭が辿り着いたのは、地下に隠された培養槽と、透明な体に光る回路を持つ佐藤社長の正体だった。視覚に依存しない異星人種族が求めていたもの、それは人間の「個別の視点」という能力。
絶望の淵で圭が選んだのは、すべての視点を統合し、新しい自分として生きる道。他者理解の革命を起こす研究者として、多様な視点が調和する未来への扉を開く。
軽やかに始まる日常が、存在論的恐怖を経て哲学的感動へと昇華する、予測不可能な現代SF作品。