あらすじ
あらすじ 二十代半ばの木田さなえは、写真家を目指している。野良猫の組み写真で某カメラ雑誌のコンテストで金賞を取り、その副賞で、写真集を刊行できる権利を得た。野良猫がさなえの得意な被写体で、撮影場所は、たいてい神社仏閣の境内であったが、それでは平凡過ぎる。せっかくの写真集である。さなえはふと、島に住む野良猫は面白いかもと──瀬戸内海の某島に、四月の下旬、リュックサックを背負って上陸した。この島の食堂で、地元民が猫島の話をしていた。明後日、その島で婚礼があるという。じつはそれは祭りで、猫神様と人間の結婚式という三十年に一度の奇祭であった。興味を持ったさなえは、その島に移った。
猫島には民宿が一軒あり、さなえはこの民宿に祭りの日まで泊まることにした。
山のてっぺんに猫神様の祠がある。その脇に松の大木が枝を広げているのだが、その枝に猫がびっしりととまっていた。これは猫神様の親衛隊で、祭りのときは、猫神様が乗った神輿の後を行進する。
猫頭(ねこがしら)家が祭主であった。猫頭はこの島の権力者で、立派な門構えである。さなえは、猫頭の庭にいた猫を写真に撮った。すると、カーテンが開き、青年から怖い目で睨まれた。さなえはすぐにその場を去ったが、後から追いかけて来たその青年に、犬山のスパイかと聞かれる。で、さなえは猫の写真を撮っていただけだと答える。青年はさなえがスパイではないことが分かり、引き返す。さなえはその後、地図に載っていたネズミの館に向かった。この地図は民宿の女将が作ったもので、ネズミの館は黒い長方形の建物である。その二階の窓から男がこっちを見ていた。さなえは怖くなり、逃げるようにして前に進んでいくと、一軒の平屋が目に入った。白い幟がたっている。雨戸が閉まって、廃屋のような感じだった。
民宿の女将に聞くと、その家は昔、結核患者の隔離施設であったが、猫神様の祭りの日は、猫神様と花嫁役の女性が一晩、その家で過ごすことになっていた。いわゆる夜伽である。
今回の花嫁役は、この島の分限者・犬山家の二十歳になる娘だった。犬山家は、犬神様を祀っている。そのことで、猫神様を祀っている猫頭家とは昔から仲が悪かった。犬山家はもともとこの島で一番の権力者であったのだが、後から来た猫頭にその地位を奪われた。元来この島はネズミの楽園で、その駆除のために猫が導入された。ところが今度は猫が異常繁殖して、飢えた猫が民家を襲うようになった。そこで、猫頭がどこかから仕入れて来た猫(?)の木像を猫神様と称して、山のてっぺんに祀った。すると、野良猫の被害が弱まった。じつは、これにはからくりがあり、猫頭は、こっそりネズミを繁殖させて、それを野良猫に喰わせていたのだ。昔の島民たちは純朴だからこれは猫神様のおかげであると信じ、以来、猫神様を祀っている猫頭家がこの島で一番の階級となった。しかし、この猫神様は、邪神であった。夜な夜な島を徘徊するのだ。そのため島民たちは、深夜になると、おちおち外に出られなくなった。
犬山家の長男は、猫頭家の横暴に耐えかねて、猫頭家の衰退を企んだ。それが今回の猫神様の祭りである。犬山は奇しくも猫頭の長男と同級生であり、自分の妹を囮にしてまでも、この祭りの悪行を暴くつもりでいる。猫神様を滅ぼす、それが犬山の長男の願いである。
祭りの日、猫頭家で、挙式は執り行われ、続いて神輿の練りとなった。前回の祭りでは、ネズミの館の主人が、神輿を妨害したのだが、今回は妨害もなく、スムーズに事は運んだ。ところが、夜伽となる家で、事件は起きた。
犬山は妹の身代わりとして、その家に身を隠していたのだが、深夜、猫神様がそのことで怒りを爆発させた。つまり自分に対する欺瞞というわけだ。犬山は猫神様に押し倒され危険な状態になった。このままいけば猫神様に喰い殺される。しかし、このとき神主の滝ノ下とさなえが助けに入った。タイミングが良かったことは事実だが、二人はこの祭りを危惧していて、深夜、二人で家の様子を見に来ることを決めていた。滝ノ下は本土から来た出張神主で、さなえとは民宿で知り合った。この後、猫神様は暴れて部屋の隅のランタンを倒し、火事となる。みんなはすぐに家の外に逃げたが、猫神様はしばらく家の中にいた。やがて火だるまとなって出て来たが、そのまま走って、岸壁から海に落ちた。
朝、猫頭は、海から猫神様を回収して、屋敷の庭に置いた。炭化した猫神様に、猫頭の長男は腹を立て蹴とばす。そればかりか、斧で猫神様を粉々にした。猫神様は依り代を失い、次なる依り代を探す。理由があって、民宿の女将が標的にされ、女将は山のてっぺんの祠に鎮座することになる。猫神様に支配された女将は体が徐々に硬くなっていく。完全に硬くなっては、もうもとに戻らない。それを救ったのが、気味の悪いネズミの館の主人であった。数万匹のネズミを引きつれて。