あらすじ
街の片隅に、ひっそりと佇む小さなパティスリー「味覚の記憶」。
このお店を営むパティシエ、味沢譲(あじさわ ゆずる)には、誰にも言えない、とっておきの秘密がありました。
それは、人の心の奥底にある感情を、まるで目の前にあるデザートのように「味覚」として感じ取ってしまう、ちょっぴり不思議な能力。
喜びは蜜のように甘く、悲しみはしょっぱい涙の味、怒りはピリッと辛いスパイスのように……。
譲は、この特別な能力を活かして、毎日お店を訪れるお客さんたちの心にそっと寄り添います。
失恋で胸がいっぱいの、しょっぱい涙を流す女性には、その悲しみを優しく包み込むようなショートケーキを。
仕事でちょっぴり落ち込んでいる男性には、心をふわりと解きほぐすビターなプディングを。
彼の作るデザートは、ただ美味しいだけじゃありません。
それは、お客さんの心を温め、そっと背中を押してくれる、とっておきの「心のレシピ」なのです。
この物語は、味沢譲が、様々な感情を抱えて「味覚の記憶」の扉を叩く人々との、心温まる出会いを描く連作短編集です。
お客さんたちの感情の「味」を通して、譲自身もまた、人の心の奥深さや、誰かに寄り添うことの温かさを、少しずつ学んでいきます。
さあ、あなたも「味覚の記憶」へ、ようこそ。