あらすじ
──その手紙は、確かに届いていた。でも、返事を出す勇気は、まだなかった。
関西在住・40代の腫瘍内科医、中村直樹。
高校時代の恩師から届いた一通のメールが、彼の心を静かにざわつかせる。
そこには、もうひとりの“同窓会の参加者”の名前があった。
玲子──29年前、告白とともに手紙を託して別れた、あの夏の彼女だった。
いまは互いに家庭をもち、それぞれの道を歩く二人。
「あの想いはもう、遠い過去」と思い込んでいた彼と、
返事を伝えそびれたまま、心の奥に手紙をしまい込んでいた彼女。
——たった3人の、小さな同窓会。
「久しぶり」の一言でほどけはじめる、記憶の封印。
止まったままだった“想い”が、静かに動き出す。
──いまなら、ちゃんと言えるような気がする。あのときの、手紙の返事を。
忘れたふりをしていた過去と、
忘れられなかった誰かをめぐる、
静かで、優しくて、少しだけ痛い——再会の物語。
(お読みくださる皆様へ)
これは、届かなかった想いを心に秘めたまま生きてきた、あなたへ捧ぐ物語です。
主人公は、まさにその「誰か」と再会を目前にして、過去と現在のはざまで揺れ動きます。
描かれるのは、美しいものではありません。
弱さ、幼さ、ズルさ、痛さ、沈黙、未練、葛藤、執着、迷いや恥じらい——そして「何やってんだよ」感。
全くもってスカッとはしません。
正直、見た目には何も起きていません。
派手な展開も、もちろんありません。
それでも――
読み終えたあと、あなたの“忘れたはずの誰か”が、胸の奥でそっと動き出すかもしれません。
少し長い物語ですが、お付き合いいただけましたら嬉しいです。