あらすじ
その少女の名は 真木 彩芽 (まき あやめ)。
大津中央東小学校に転校してきた小学五年生。
事故により両親を亡くし、祖父母の元へと預けられた彼女は周囲の温かさとは裏腹に、自身の人生に絶望感を抱いていた。
そんな彼女の心象を表すように事故以来、その目には〈 バケモノ 〉が視えるようになっていた。
その幻がまた、彼女をより絶望へと追いやるのだ。
『あの山には近づいちゃダメだ。鬼がでるから。子供は食べられちゃうって、父さんが言ってた』
ある日、学校から見える山に光るふしぎな篝火を見つけた彩芽は不思議に思い、クラスメイトに問いかけると、そんな迷信めいた答えが帰ってくる。
それを聞いた彩芽は下校時間になると、一人で火の見えた山へと向かう。
自分を食べてもらうために……。
山に入って小さな祠を見つけた彩芽は、心から鬼との出会いを願う。
その真摯な願いに応えてか、彩芽の前に現れた鬼はそれはそれは女性と見間違うほどに美少年だった。
「お願い……します……私を食べて……この苦しみから……解放してください……」
そう告げた彩芽に、少し思案した鬼は待ったをかけた。
訝しむ彩芽に、鬼は安心するように告げると、こう続けるのだった。
『オレは最高に“絶望”した人間の味が知りたいんだ。お前が人生で一番絶望したその瞬間にお前を頂こうか。それまで、お前に取り憑いてやる。安心しろ。お前が絶望したら、必ず食ってやる』
こうして、少女の魂を最高に美味しいと思える状態で食べようとする鬼と、苦しみから解放され父と母の元に行こうとする少女の物語が始まった。
これは死にたがりの少女と、食べたがりの鬼の物語。
心が凍りつくほど恐ろしく、そして温かなお話。
『フフ……!絶望したか……?』
鬼は低い声で笑うと、彩芽の心の臓が脈打つ胸にその爪を突きつけた……。