あらすじ
1988年冬。同志社大学文学部に通う二回生・中田晴人(ナカタハルヒト)は、信州・志賀高原へのスキー旅行の帰り道、軽井沢にある老舗の蕎麦屋に立ち寄る。
蕎麦の香りに誘われるようにして出会ったのは、店でアルバイトをしていた、年齢不詳の少女・舞子。癖っ毛をポニーテールに束ね、真冬でも短パン姿で、革リュックには猫のカリカリを忍ばせている。少し浮世離れしたその少女に、晴人はつい、自分の住所を箸袋に書いて渡してしまう。
翌週、舞子は本当に京都までやってきた。下宿の前で三角座りをして――何事もなかったように、彼の日常に入り込んでくる。
「河原の等間隔カップルの間隔を変えたい」
「川下りがしたい。今すぐ」
「今すぐたこ焼きが食べたい」
舞子の気まぐれな“お願い”に翻弄されながら、晴人は京都の街を駆け回る。
学生アパート、鴨川デルタ、四条河原町、祇園宵山、送り火、銭湯、夜の北山カフェ、ローザ・ルクセンブルグ……
大きな事件は起こらない。ただ彼女のいる風景だけが、すこしだけ、非現実。
昭和の終わり、青春のまぼろし。
もう戻らない季節と、不思議な少女をめぐる、京都ノスタルジー幻想譚。