あらすじ
【高校での出会い】
教室の隅、結人はひとりでパンをかじっていた。
友達がいないわけではない。でも、真ん中にある輪――にぎやかで、笑い声の絶えないその空間に入っていくのは、どうにも疲れる。
春の風がカーテンを揺らし、ひらりと日差しが差し込んだ。
その瞬間――ふと、何かが触れた気がした。
視線。遠くから、まっすぐに。
顔を上げると、見えた。
二階の渡り廊下。制服の袖を肘までまくり、本を手にした男が立っていた。
逆光の中、結人を見ていた。
そのまなざしは、強くも優しくもない。けれど、確かに“結人を見ていた”。
目が合った……と思った瞬間、男は本に視線を戻した。
まるで最初から誰も見ていなかったように。
けれど、結人の胸の奥が、きゅうっと鳴った。
(誰……?)
数日後、その名前を知った。
生徒会の掲示に貼られた「模試上位者一覧」に載っていた。
神谷徹。
二つ上の先輩。優秀で、誰とつるむでもなく、静かに本を読んでいる。
でも不思議と、人を寄せつけないわけではなく、どこか“品”があった。
話したこともないのに、目が離せない。
結人はいつしか、その名前を心のどこかで反芻するようになっていた。
放課後。昇降口の隅。
担任に頼まれて、美術準備室に向かっていた。
「ねえ、ちょっと待って」
背後から、声。
振り返ると、見知らぬ上級生たちが三人、ゆるく笑いながら近づいてくる。
「一年? えらいね〜」
「なんか、顔ちっちゃ」
声は軽い。けれど、その軽さに混じる悪意を、結人はすぐに察した。
書類を渡そうとした手が、震える。
【大学に入り】
静かに名前を呼ばれ、結人は従うように身体を寄せた。
肩が触れ、腕が触れ、それでもまだ、徹の手は何もしてこない。
「先輩‥いつも、こんなにしてくれるけど……ほんとは、迷惑じゃないですか?」
そう聞いたのは結人だった。
自分でも、なぜそんな言葉が出たのかわからない。
「迷惑?」
徹は少し笑ってから、結人の髪を撫でた。
「そんなふうに思ってるの、君だけだよ。……俺にとって、
君が来る日は、唯一の 休息なんだから」
キスは、ためらいのないものだった。
唇が触れ合うだけのはずが、すぐに徹の舌が結人の口内へと侵入する。
熱く、深く、ゆっくりと。息を奪うようなキス。
「……っ、せん、ぱい……」
言葉は舌の間に消えていく。
押し倒されることはなかったが、結人の膝の上に徹の手が滑り込んできた。
服の上から太ももに触れる、優しくて、それでも意図のある手のひら。
結人は少し身をよじった。
「やだ?」
その声は静かで、けれど逃げ道を与えない。
「……いえ、別に……」