あらすじ


ごく平凡な高校生だった湊陽(みなとよう)の日常は、2025年6月のある朝、音もなく消え去った。
車の走行音も、鳥の声も、家族の気配さえも。世界は不気味なほど静まり返り、空は見たこともない人工的な蒼色に染まっていた。たった一人、時が止まった街に取り残された陽。これは夢か、罰か。絶望的な孤独の中、彼のパソコンに表示されたのは「境界へ」という、謎のメッセージだけだった。
メッセージに導かれ、世界の法則を探る孤独な旅が始まる。やがて陽が辿り着いたのは、世界の真理を司る、人知を超えた存在。そこで彼は、世界の被害者である「観測者」から、新たな世界をゼロから創造する「設計者(アーキテクト)」へと、その役割を変えることになる。
無限の可能性を秘めた白紙の世界で、彼に与えられた創造の道具は、あまりにも素朴な、一本の鉛筆だった。
失われた故郷を、愛する人々を、その手に取り戻すために。陽は、自らの記憶の全てを懸けて、鉛筆を走らせる。アスファルトの亀裂、雨に濡れた土の匂い、母の愛したアジサイ、風にそよぐ葉の音。一つ、また一つと、生命の息吹が世界に灯っていく。
完璧に再現された懐かしい我が家の前に立ち、彼は万感の思いでドアノブに手を伸ばした。しかし――その手は、冷たい金属の感触を確かめることなく、虚しくドアをすり抜けた。
彼は、全てを創造できる神になった。だが同時に、自らが創った世界に触れることさえできない、孤独な幽霊でもあった。
完璧な世界を目の前にしながら、決してその中に入れない。聞こえる、匂いもする、だが触れられない。この残酷な法則の中で、陽は、本当の意味で「帰宅」することができるのだろうか。
神の力を手にした、ただの高校生の、あまりにも切ない創世記が、今、始まる。

連載情報

ウェブ小説

配信言語
アルファポリス
アルファポリス2025/06/13
  • 現在の作品目が覚めたら世界が消滅していたので、鉛筆一本で全てを創り直したけど、俺だけその世界に触れないらしい