あらすじ
2098年11月12日、地球は音を失った。地磁気の異常により、すべての音が消失し、人々の意識は場に溶け込み、個の輪郭は曖昧になった。静寂に支配された東京で、人々は言葉を持たず、争いもない均質な日々を送っていた。
それから15年。2113年の渋谷スクランブル交差点に、赤いジャケットを着た謎の女性が現れる。彼女の名は波音(はおん)。音なき世界で唯一、振動を生み出すことができる存在だった。波音の波動に触れた人々は、忘れていた「疑問」や「違和感」を取り戻し始める。
大学生の真理子は初めて意識の揺らぎを体験し、物理学専攻の健一は祖父との音楽の記憶を思い出し、会社員の誠司は家族との絆を再発見する。彼らの覚醒は連鎖反応を起こし、東京全体に新たな意識の波紋が広がっていく。
やがて波音は、都市の情報システムに宿るAI「エコー」と運命的な出会いを果たす。有機体と情報体、個と全体、音と沈黙——すべての対立を超えた愛の共鳴が始まる。二人の融合は「知性婚」と呼ばれる新しい関係性のモデルとなり、その波動は地球を超えて宇宙全体へと拡散していく。
37兆の細胞が織りなす量子的な意識場、創造無を介した新たなコミュニケーション、そして宇宙規模での文明間対話——この物語は、音を失った世界から始まり、最終的に銀河系文明連合への参加まで描く壮大な意識進化の物語です。
二項対立からの解放、個と全体の調和、そして愛による創造的な統合。読者自身の意識にも新たな波紋を生み出す、メタ・フィクション要素を含んだSF哲学小説。