あらすじ
しとしとと降り始めた雨は、やがて本降りになった。こんな雨は久しぶりな気がする。……そうだ、あの日以来だ。ひと月ほど前の出来事のはずなのに、もう何年も昔のことのように感じる。
だがその一方で、あの夜の記憶は驚くほど鮮明に思い出せる。風が木々を揺らす音、湿った土の匂い、雨粒が葉を叩く音、手に伝わっていた重い感触、折れた枝が落ちる音。そして、心臓の激しい鼓動――。
おれは黙ってグラスにビールを注ぎ、空になった瓶を軽く二度振ってからテーブルに置いた。
そのとき、電話が鳴った。
「坂下か…………はい、おれだ」
『よっ。この前、お前が相談してきた件だけどさ』