あらすじ
ある日、うまくいかなかったオーディションに後悔しながら、ギターケースを背負う「彼」は、帰途の最中、その街のスクランブルを渡ろうとした刹那、自分に向かって猛スピードで突進してくる車体がある、と確認できたのも束の間、今まで感じたこともない強烈な痛みが体中をつんざいたと思ったら、絶命への道をひた走っていた。
最後の「彼」の思考はといえば、自らの想う乙女の可憐な姿を、人一倍に思い浮かべたことくらいだっただろうか。
ただ、気づけば、眼前には、巨大な氷塊のようなクリスタルをした存在が「彼」のことを見下ろしているのである。
そしてクリスタルは「手違い」を起こした、などと言ったのだ。
やがて混乱とも畏怖ともつかぬ心境の只中にいる「彼」を、まるで磁石かなにかで引っ張り始めるかのような強烈な力が及んでくる。
眼前のクリスタルの姿は遠のいていくが、最中、クリスタルは、「彼」の残した想いが払拭されれば、この「手違い」も解消される、と、いった、メッセージを「彼」の元に放つのだった。
また、「彼」は、我に返ったかのように、目を開く。すると周囲は、真っ暗闇だ。
ただ、次の刹那、天井が急に明るくなるようになると、そこには、見知らぬ天井を背に、美しい乙女がこちらを覗き込んでいるようにしている。
肌も際どい、部屋着姿だが、それにも構わず乙女は、「美味しいランチのあるところを、教えて」などと、なぜか「彼」に話しかけてくる。
そして「彼」が答えた言葉と言えば、「お前は、誰だ?」という絞り出した一言だ。
びっくりしたのは乙女の方だ。途端に、自分のスマホを放り投げた。
すると、どうかしたのかと老婆の声がし、乙女などは機種変したばかりのスマホのAIが、何かおかしいなどと答えている。
ひゃっひゃっと笑いながら近づく老婆に、仰天の乙女は説明を続け、やがて、寄り添う様にこちらを覗き込む二人の姿は、祖母と孫娘、といったところか。
ただ、そんなことは今の「彼」にはわからないというものだ。
どうやら、自分という存在が、一台のスマホの中に入り込んでいるということなど。