あらすじ
春の夜、佐倉春樹は、祖母から教わった「花あかり」――夜桜が宵闇の中でほのかに明るく見える情景――の記憶を胸に、故郷・長野の川沿いの桜並木を訪れる。大学三年生となった春樹は、都会での忙しさに追われ、久しぶりに夜桜を見に出かけたのだった。静まり返った夜道で、桜の下に佇む白い着物の少女・桜子と出会う。彼女は幻想的な美しさを湛え、どこか現実離れした雰囲気をまとっていた。
桜子は「桜の季節だけここにいる」と語り、春樹は彼女に強く惹かれていく。二人は夜ごと神社で語り合い、春樹はやがて桜子が江戸時代末期に短い生涯を終えた女性の魂であり、桜の精のような存在であることを知る。桜子は「叶わなかった願い」があり、それが彼女をこの世に繋ぎとめているという。
春樹は桜子に恋心を抱き、彼女もまた春樹を愛するようになる。しかし、桜の花が散ると桜子は消えてしまう運命だった。春樹は彼女を人間に戻す方法を問うと、桜子は「神社の古い桜の木の下に埋まる自分の骨を正しく葬れば、成仏して生まれ変われる」と明かす。ただし、その際は春樹との記憶も全て失われるという。
春樹は葛藤の末、桜子の幸せを願い、彼女の骨を見つけて供養する。桜子は感謝と別れを告げ、桜の花びらとともに消えていく。春樹は彼女との思い出を胸に刻み、都会での生活に戻る。
数年後、春樹は東京で桜の下、桜子に似た女性・小野桜と出会う。彼女は自分でも理由は分からないが「桜の季節になると夜桜が見たくなる」「白い着物で神社にいる夢を見る」と語る。春樹は彼女に運命を感じ、再会を約束する。桜子の生まれ変わりか偶然かは分からないが、春樹は「花あかり」の夜の出会いが人生を変えたこと、そして真実の愛は時を超えて繋がることを確信する。