あらすじ
強い信頼関係で結ばれていた伯爵家当主の夫を一年前に亡くし、喪失感に苛まれながらもなんとか生きてきた30歳のセレナは、王城の侍女として働き始めていた。ある日、その真面目な勤務態度と何事もそつなくこなす器用さを買われ、18歳の第五王子ロランの側付き侍女として務めることとなる。
しかしロランは王家の中でも腫れもの扱いをされている王子だったのだ。
というのも、十歳の頃から味覚と嗅覚がまったく機能せず、生きる希望を失ったように毎日自室でぼんやりとしているというのだ。社交にも出ず、自室に閉じこもり、毎日窓の外を呆然と見つめるだけの日々。ロランの側にはいつしか人が寄り付かなくなり、最低限のお世話だけをする使用人が存在するのみとなっていたのだった。
セレナがロラン付きとして勤務する初日。事前に侍女長に聞いていた通り、セレナが挨拶をしてもロランは何の反応も見せず、窓の外をうつろな瞳でぼんやり眺めたままだった。
しかし、セレナがその場を去ろうとした瞬間、その様子は一変した。 ロランが瞠目し、セレナの腕を強く引いたのだ。
「この香り……。間違いない。俺がずっと探していたのはお前だ」
夫を亡くした喪失感の中、それでも生きていくことを決めた侍女セレナと、味覚と嗅覚障害のせいで生きることに絶望していたロランの運命が交わる。