あらすじ
雨宿りの夜、私は少年と出会った。
彼は雨に濡れた子犬のように震えていて、どこか──過去の私に似ていた。
吸血鬼である私は、彼の血にほんの少しだけ触れた。
それだけで十分だったはずだった。
でも、あの味は私の中の何かを壊した。
そして彼は、私に笑って言った。
「僕の死だけは、僕のものになっていいよね?」
彼の血を吸うたび、私の中に彼が染みこんでいった。
彼の命は、彼のものではなく、誰かの代わりとしてしか扱われてこなかった。
そんな彼が“自分だけの死”を求め、私にそれを託してくる。
私は与えられた愛に溺れ、喰うはずだった“人間”に、喰べられていった。
幾夜を共にし、彼は大人になった。
そして誕生日の雨の夜、彼は言った。
「君に一番綺麗な僕を、食べてほしい」
私は永遠を持つ者として、彼の命を、彼の願いを、彼の愛を抱き締める。
そして、彼は最後に私の首に噛みついた。
その痛みが、なによりも嬉しかった。
──あの日以来、私に朝は来ない。
私は今も彼に問うている。
「ねぇ、私はまだ、美しい?」
喰べて、愛して、喰べられて。
愛の終着点を描く、吸血鬼と人間の“雨宿り”。