あらすじ
月の光のもと、群青色に染まる闇の中で、その桜は佇んでいる。
仄白く、闇に浮かび上がる花々を見つめて、小夜は思い出していた。ただひたすらに慕う、樹との過去を。
霊力の強さを買われ、小夜は五歳で村の神社へと召し上げられた。だが巫女としての毎日は孤独と厳しさの連続で、優しい両親から引き離されたばかりの小夜は、毎日泣き暮らしている。
そんな小夜に優しく声を掛けたのが御子で、二つ年上の樹だった。
樹は歳に似合わず聡明で霊力に優れ、大人たちからも一目置かれる、優秀な神職であると同時に、小夜をいつも気に掛けてくれる、優しい少年でもあった。
心を通わせる二人だったが、次第に小夜は、その優秀さゆえに、異界を封ずる次代の柱として目される樹の苦悩を知ってゆく。
それでも、二人が子供の頃はまだ、穏やかな時間が流れていた。
家族になろうと誓った出会い、周りの目を盗んで会い、誰にも見つからぬよう遊んだ日々、そして小夜の運命を決定づけた、花鎮めの舞との出会い。
だが時間は容赦なく過ぎ去り、二人の子供時代は終わりを告げる。そしてついに、樹が柱として選ばれる日が訪れた。
そして小夜は樹との約束を果たすため、舞姫として、柱となった樹の宿る、桜の前に立った。