あらすじ
昭和初期、太平洋戦争前夜。
東京・市ヶ谷臺(いちがやだい)の陸軍士官学校。
予科卒業間近の兵科発表のとき、輜重科(しちょうか)を志望した優秀な生徒がいた。
輜重科とは後方支援の兵站(へいたん)を担う地味な兵科で、あえて進もうという生徒はまずいない。それなのに彼――周防(すおう)は、輜重科を自ら志望したという。
それを聞いた天下井(あまがい)は彼に興味を持った。天下井は陸軍騎兵大佐の父を持ち、陸軍幼年学校から陸士に進んだ「幼年組」のエリートだ。いっぽう周防は、幼年組の取り巻きが何かにつけて見下そうとする「中学組」。しかし初めて言葉をかわした周防は、寡黙だが魅力的な男だった。
「貴様ともう少し話がしたい。次の日曜は何してる」
天下井の唐突な誘いに周防の目が昏く光る。
その顔つきをみて天下井は確信した。天下井の“公然の秘密”を周防もおそらく知っている。それならば話は早い。
「貴様の下宿へ行ってもいいか」
「いいとも」
士官候補生ふたりが互いに惹かれあい、やがて「貴様のために俺は生きよう」と語りあうようになるまでの短い話。糖度ゼロ、約1万字の掌編です。
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装画はほしふるほたるさん。
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