あらすじ
毎日朝晩会社の花壇の手入れをする作業服を着たその人のことを、僕は〈水やりの君(きみ)〉と心の中で呼んでいた。声をかけられなくても、彼女の姿を見られるだけで僕は幸せだった。
五年前、僕は実父の清二と絶縁した。そのとき、清二の実兄の守が僕を養子とした。守はいつになっても恋人一人つくろうとしない僕を心配して、見合い話を持ちかけてきた。見合いする気はなかったが、釣書を見ると見合い相手は〈水やりの君〉こと小木歌歩だった。
歌歩との見合い後、彼女も僕との交際を希望し、僕らの交際が始まった。歌歩との交際は順調に思えたが、クリスマスイブの夜、自宅を訪れた守が頭を下げて、歌歩と別れてほしいと要求した。
もちろん僕は拒絶したが、守は部下に命じて、どこかで現在進行中の修羅場をテレビの画面に映し出させた。裸で土下座する女一人と男二人。女は歌歩であり、二人の男は歌歩の上司たちだった。
クリスマスイブの夜、歌歩は交際相手のいる身でありながら、二人の既婚上司との情事に酔いしれていた。そこへ既婚上司の奥さん二人が突入したのだった。
既婚上司の一人は、歌歩とは遊びであり、歌歩との情事はセックスレスだった妻との練習だったとうそぶいた。今までまるで現実感が感じられなくて呆然としていたが、最愛の女性が既婚上司のセックスの練習台だったという残酷な現実を目の当たりにして僕の心は壊れてしまった。
もう一人の既婚上司は、結婚前の恋愛の一つだと見なして歌歩を許し交際を続けてほしいと僕に依頼してきた。そうすれば、僕の出世も後押ししてくれるという――
(登場人物)
佐野歩夢(さのあゆむ)……昭和建設総務課勤務。主任、25歳。
小木歌歩(おぎかほ)……昭和建設経理課勤務。新入社員、22歳。
佐野守……昭和建設社長。歩夢の養父。
佐野清二……守の弟で、歩夢の実父。歩夢に絶縁された。
佐野架(かける)、夢叶(ゆめか)……歩夢の兄妹。歩夢に絶縁された。
大石夏海……歩夢の実母。
宮田大夢……夏海の不倫相手。十年前に自死。
宮路修(みやじおさむ)……昭和建設経理課長。
田代一樹(かずき)……昭和建設総務部長。
田代海人(かいと)……一樹の息子。昭和建設勤務。
☆表紙絵は清原結音さん〈https://estar.jp/users/148832276〉に描いていただきました。