あらすじ
高校生の「僕」は、母が買ってくれた競泳用水着をまだ使えず、毎朝プールの観客席から泳ぐ少女・水瀬透子を眺めるのが日課だった。ある日、彼女から「時間逆流症候群」という、時間を逆向きに生きる病を告白される。透子にとって、僕は「いつも見守ってくれる存在」であり、この関係が彼女の時間軸を安定させていた。
しかし長く視線を交わすことで彼女の時間の流れはさらに加速し、透子は日ごとに若返っていく。高校生だった姿は次第に中学生、小学生、そして幼児と変化し、ついには新生児となり、静かに息を引き取る。
しかしこの別れは、彼女にとっては新たな始まりだった。時間を円環するように、プールの“向こう側”にはさまざまな年齢の自分と透子が存在し、お互いを見つめ続けていた。やがて僕は毎朝プールで泳ぐようになり、見守られる側となる。その後、再び中学生姿の透子と出会い、今度は初対面として「また明日」と新たな約束を交わす。
数年後、僕は社会人となって透子と結婚し、普通の人生を歩むが、彼女の名を娘にも名付ける。不思議なことに、娘の透子も「プールで見つめられる夢」を見ていた。過去と未来が視線によって円環し、もう戻ることのないはずの出来事が、心の中で静かに繰り返されている。
時を超えても、お互いを見つめ続ける約束。それが、僕と透子を結ぶ永遠の約束だった。