あらすじ
時は大正。
婚約者を立て続けにふたり亡くし、さらに母や妹も亡くした男爵令嬢の葛木綾子。
婚期を逃し、呪われていると屋敷で女中のように虐げられていた綾子であるが、ある日やってきたドイツ人伯爵エーリッヒに求婚される。
彼が求めていたのは「身分の高い日本人妻」と「葛木家の家宝」。
葛木家での虐げられていた日々から逃れるために、綾子は彼の手を取った。
しかし、婚儀の直前にエーリッヒは綾子の父親と継母の「結納金が目的。伯爵には早々に死んでもらい、家宝と共に早々に戻ってきてもらおう」という趣旨の会話を聞いてしまう。
婚儀は挙げたものの、激怒したエーリッヒは初夜を放棄。
だが、綾子を追い出すことだけはしなかった。彼は実は人狼で、死ねない呪いがかかっているのだ。綾子がエーリッヒを殺そうとしてもどうせ殺せない、そう彼は考えたのだ。
そんな時、親友の伸晃(のぶてる)に飼い犬のふりをして綾子を探るのはどうだと提案を受け、狼姿に変身して新妻を探りに行く日々が始まる。
夫婦の仲は全く縮まらないが、綾子と飼い犬のふりしたエーリッヒはどんどん仲を縮めていき……
これは人狼伯爵と孤独な男爵令嬢の摩訶不思議な婚姻譚。
登場人物紹介
《葛木綾子(かつらぎあやこ)》
二十五歳。胸元に不思議な形のあざがある。二度の縁談は、結納直後にいずれも相手方の急死により破談。使用人同然の暮らしをしていた。代々葛木家に伝わる家宝、そして身分のある日本人妻を求めるエーリッヒとの条件ありきの結婚をする。
《エーリッヒ・フォン・オイレンブルク》
二十七歳、若きドイツ人伯爵。代々人狼の血を引く一族、オイレンブルク家の当主。
父親は明治政府の雇われ外国人で、幼少期日本で育ち、再来日。世界屈指とも言われるドイツの工作機械を日本に輸入する商社、オイレンブルク商会の代表。日本の政府や産業界からも一目置かれる存在。実は人狼で、毎晩零時過ぎると夜明けまで強制的に狼姿になってしまい、昼間も自由に変身できる。
《エリック》
エーリッヒの狼の時の姿。体格のいい黒い犬のように見える。綾子の真意を探るため狼(エリック)姿で綾子に近づくエーリッヒだが、犬好き綾子の撫でやブラッシング、おやつ、膝枕攻撃に籠絡され、ひたすらデレデレと尻尾を振ることになる。
《大山伸晃(おおやまのぶてる)》
エーリッヒの幼馴染。大山財閥の三男。
母親はフランス人。気ままな三男坊で、留学経験があり外国語に堪能で社交的。オイレンブルク商会の副代表。エーリッヒのブレーンにして良き友。
狼姿で奥さんを探れ! と言った張本人。陰陽師の血を引いているので人外の何かを感じ取る力を持つ。