あらすじ

かろりと音を立てて開いた引き戸から、暖かさの中にもまだどこか冷たさを内包した風が吹き込んできた。水で溶いたような青空は西の方からじわりと橙に染まり、真珠色の雲をたなびかせている。洋服を腕に抱えたとき、ふわりと春風が室内に吹き込んだ。  肺を満たすハーブのような涼やかな香りと、ふいに剥き出しになる閉まったはずの砕けなかった想い。この香りは駄目だ。嫌いなわけではない。むしろかなり好きな香りなのだ。それでも、だからこそ、この香りは駄目だった。一年と少しが経つ間にすっかりと見慣れてしまった部屋を、嗅ぎなれない匂い、初恋の人の香りが満たし始めた。  大学生で一人暮らしをしている卯月は、新しい柔軟剤を使った洗濯物の匂いによって、仕舞い込んだはずの想いを思い出す。中途半端なまま大事に仕舞ってしまったその感情。思い出になり損ねたそれを整理するため、卯月は当時の自分と改めて向き合うことにした。

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エブリスタ
エブリスタ2025/05/25
  • 現在の作品初恋匂い香