あらすじ
※光文社文庫より書籍として発行していただきました。
書籍版は加筆修正と、スピンオフ的な短編を2編書き下ろしておりますので、機会があればお手に取っていただけると幸いです。
時は江戸。
神田川を望む柳原土手に並ぶ古着屋の一つに、『紅堂』はあった。
そこへやってきた一人の女性客。
地味なものを、と選んだ着物の支払いに彼女が差し出したのは、白く濁った玉を連ねた数珠だった。
店主の新見《にいみ》真白《ましろ》は戸惑うが、柳原土手の古着屋街を回って断られ続け、この紅堂が最後だという。よほどの事情かと尋ねた真白に女は、葉《よう》、と名乗り身の上を語る。
曰く、呉服問屋の大店に嫁いだものの子宝に恵まれず、五年目にして離縁を申し渡されたという。着の身着のまま放り出された葉を不憫に思った真白は、その数珠を代金として受け取って古着を売り、人手が足りない茶屋の情報も教えた。
葉が去った後、日課である近所の神社へ参拝しようと手水舎に立ち寄った際、うっかり数珠を落として汚してしまう。だが、手水舎の水で洗ってみると、まるで洗い流されたように透明に澄み、連なったその石が水晶であったことを知る。
その夜、真夜中に目を覚ました真白の枕元に、直衣《のうし》姿の美しい公達が現れる。