あらすじ
「なんにもしてないのになんで成績って勝手に悪くなっていくんだろうな」
「なんにもしてないからでしょ」
今日返ってきたばかりの国語の小テストを見ながら首を傾けていると、七文は呆れたようにため息をついた。
「数学って数字でしゃべるから難しいよね」
「国語は日本語でしゃべるのに難しいけど」
「瀬理《せり》くんは理系男子だから人の心がわかんないんだね」
「文系女子の七文なら人の心がわかるのか」
そう尋ねると七文は「無理無理。心って見えないもん」と笑う。
俺たちは外を眺めるように机をふたつ窓際に並べて座っていた。
窓ガラスの向こう側には景色を台無しにする距離に一本の木が立っていた。
名前も種類もよくわからない。低木と呼ぶには高さがあって、大樹と呼ぶには物足りない。一年中同じ色の葉をつけている木で、もう一月も終わりだというのに散る気配はない。
「けど本当なのかよ」
「む、なに疑ってんのよ」
「だってこいつオーラなさすぎないか」
「まあわかるけどさあ。でも本当だよ。先生がそう言ってたし」
彼女はピンと人差し指を立て、その指先を窓の外に向ける。
ひゅうと笛を吹くような音を立てる北風に薄緑色の葉が揺れた。
「これがうちの高校に代々伝わる『伝説の木』なんだって」